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[  控訴審判決のポイント 〜私はこう見る〜
(2005.10.9)
 
 
(1)アイコン特許は無効にされるべきという判断は妥当か
知財高裁は、乙18文献、乙12文献、および乙13文献の記載を根拠に、本件第1発明〜第3発明が、特許法第29条第2項に違反して特許された(すなわち、進歩性がない)ものと判断した。
・乙18文献には、「ユーザが、ヘルプ・プルダウン・メニューからスクリーン/メニュー・ヘルプを選択すると、カーソルがクエスチョンマーク型に変わり、ユーザが特別なヘルプ・モードにいることを示す。ユーザは、クエスチョンマーク・カーソルをスクリーン上であちこちに動かし、カーソルが関心のあるエリアにあるときにマウス・ボタンをクリックすることができる。」との記載があり、相違点は、アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる「機能説明表示手段」が、アイコン特許の第1発明では「アイコン」であるのに対し、乙18文献の発明では、「スクリーン/メニュー・ヘルプ」アイテムである点であると認定した。
・そして、この相違点について知財高裁は、乙13文献、乙18文献の記載より、メニューアイテムは周知の技術事項であり、所定の情報処理機能を実行するための手段として「アイコン」又は「メニューアイテム」のいずれを採用するかは、必要により当業者が「適宜選択することのできる」技術的な設計事項というべきであると判断した。
 
・上記のような知財高裁の判断は妥当なものである。
 
・一方、アイコン特許の無効を認めなかった第1審における裁判所の判断が妥当でなかったかというと、そう言うわけではない。第1審では、乙18文献や乙12文献はジャスト側から示されていないので、そのような類似した証拠のない状態では、第1審の判断自体も妥当な判断であったと言える。
・ジャストは、第1審において、キーボードの押下によって機能説明を表示させるシステムと、仮想キーボードを組み合わせることによって当業者が容易に想到できるので、アイコン特許に進歩性がない旨の主張をしていた。しかし、今回の例と比較すると、当時、キーボードの押下に代えて、仮想キーボードを用いることに、「適宜選択することのできる」ほどの容易性(動機付け)があったとする主張が結構難しいものであることがよくわかる。
・松下側が上告するかどうかは不明であるが、提出された証拠を見る限り、アイコン特許が無効であるとの判断を覆すのは難しいとの印象を受ける。=>2005年10月11日、松下が上告を断念
 
(2)第1審で今回の結論を導き出すことはできなかったのか
・第1審は、訴えの提起から起算して4か月足らずで口頭弁論の終結を迎えており、極めて迅速に行われた。したがって、ジャストがそのような短期間の間に、アイコン特許の無効資料を探し出すのは極めて困難であったと想像できる。さらに、控訴審で提出された新たな証拠は、一部ネット上で示唆があったものも含まれるが、結果として外国の刊行物であり、その意味でも、第1審において、これらの証拠を提出できなかったのはやむを得ないと考えられる。
・しかし、「W.知財高裁における判決の行方」で前述したように、アイコン特許に関しては、新規性・進歩性以外の理由で無効を主張することもできたのではないかと思料される。このような主張において先行技術を提示する必要はない。また、訴訟では、並列的に、あるいは二次的・副次的な位置づけで複数の主張をすることが可能であり、様々な方向からアイコン特許の有効性を覆す攻めをしても良かったのではないかと思われる。
・また、アイコン特許を無効にすべく、特許庁に対して無効審判請求を行うことも有効な手段だったのではないかと考えられる。そうすれば(裁判官の裁量ではあるが)、無効審決が確定するまで訴訟手続きが中止される場合もある。
 
(3)第1審で認定された間接侵害の起点が繰り下がる?
・これは、そもそも訴訟が差し止め請求訴訟であり、アイコン特許が無効と判断されたため、結果に影響を与えないが、間接侵害の主観的要件に関して、第1審とは異なる判断がされているので、とりあえず確認しておく。
・第1審では、松下が平成14年11月7日に申し立てた別件製品に係る仮処分の申立書の送達の時からジャストは、本件発明が特許発明であること、およびジャストの製品が本件発明の実施に用いられることを「知って」いるとの判断であったが、控訴審では、「別件仮処分の対象物件が控訴人製品でないことは、その主張自体から明らかであって、それ自体失当といわざるを得ない」と断じ、「知った」時点を、訴状の送達を受けた日であるとした。
・しかし、松下の平成14年11月7日の仮処分の申立書は、ジャスト製品をプリインストールしたソーテックのパソコンに対するものであり、ソーテックとジャストに送付されており、このことから考えると、この時点でジャストが実質的に「知った」と解しても(すなわち、原審の判断どおりでも)よかったのではないかと思われる。
・いずれにせよ、間接侵害による損害賠償請求を行う場合には、相手の製品と自社の特許権を明示した警告書等を、慎重かつ迅速に相手方に送付する必要がある。
 
(4)特許法第101条4号の規定とプログラムの関係
・特許法第101条4号の規定に関しても、第1審とは異なる判断がされている。同号は、方法特許の間接侵害に関する新たな規定で、裁判官は、「その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産、譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであって、そのような物の生産に用いられる物を製造、譲渡等する行為を特許権侵害とみなしているものではない」と判示している。
・たしかに、CD−ROMやDVD等の記録媒体に格納され販売されるプログラムプロダクトは、「物の生産に用いられる物」、すなわち、コンピュータの生産に用いられるものであって、「その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物」ではなく、同号には該当しないということが言えそうである。
・この関係は、以下の図のように表すことが出来る。
間接侵害関係図
 CD−ROMやDVDといった記録媒体(控訴人製品)に格納されたプログラムがコンピュータにインストールされると、結果的に、アイコン特許の第1発明(装置特許)が生産されることになる。しかし、控訴人製品は記録媒体であるので、アイコン特許の第3発明(方法特許)を実施するものではない。この方法を実施するのは、コンピュータであるということになる。従って、控訴人製品をパソコンにインストールして、そのパソコンを販売すれば4号に該当することになる(それ以前に、このような行為は第1発明の直接侵害になるが...)。
・ただし、プログラムを格納したCD−ROMやDVDがコンピュータのドライブにないとソフトウエアが起動しないタイプのものは、すくなくとも形式的には、上記の「その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物」にあたる可能性がある。しかし、その場合でも、ソフトウエアは、(全部または一部の)実行可能モジュールがメモリーにロードされた状態で実行されるため、CD−ROMやDVD自体を「利用して」アイコン特許の第3発明を実施したと言えるかどうかは疑問である。
・なお、裁判官は、この判断のあとで、「ちなみに,前記(1)のとおり,既に,特許庁は,平成9年2月公表の「特定技術分野の審査の運用指針」により「プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」について,また,平成12年12月公表の「改訂特許・実用新案審査基準」により「プログラムそのもの」について,それぞれ特許発明となり得ることを認める運用を開始しており,また,平成14年法律第24号による改正後の特許法においては,記録媒体に記録されないプログラム等がそれ自体として同法における保護対象となり得ることが明示的に規定されている(同法2条3項1号,4項参照,平成14年9月1日施行)。このような事情に照らせば,同法101条4号について上記のように解したからといって,プログラム等の発明に関して,同法による保護に欠けるものではない。」としている。今回のケースでは、もしアイコン特許が有効であれば、特許法第101条2号の方の間接侵害でCD−ROMの販売等を押さえることができたので、4号について上記のような判断がされても大きな影響はなかったと思われる。
 この記載は、4号についての適用を否定したことで、プログラム等の発明について十分な保護がなされないのではないかという疑念が生じるのを危惧してのものかも知れない。
 
(5)時機に後れた攻撃防御方法の判断
・ジャストは、以下のような理由で、追加的に提出した無効資料等が、時機に後れた攻撃防御方法にあたらないと判断された。
(1)原審が訴えの提起から起算してもわずか4月足らずの「短い期間」で行われた。
(2)控訴人の新たな主張・立証は、基本的に、控訴審の審理の「当初」において行われた。
(3)新たに追加された文献(証拠)は、いずれも外国において頒布された英語の文献であった。
・逆に言うと、上記の条件がひとつでも欠けていたら、証拠の提出が認められなかったかもしれない。たとえば、見つかった資料が比較的検索が容易な国内特許文献だったらどうだったのか...。追加的な証拠の提出や主張は、「訴訟の進行状況」によっては、採用されない可能性があるので十分注意が必要である。
 
(6)特許無効による権利行使の制限
・裁判所は、特許法104条の3第1項の規定に基づき、特許権が無効審判によって無効にされるべきであると判断した場合は、その特許権による権利行使をすることができないとして、原告(特許権者等)の請求を棄却するが、このようなケースは、同項規定の施行(平成17年4月1日)から10月9日までの6月足らずで、本件を含めて5件を数えており、かなり多いと言える。
・特許庁によって一旦特許と認められたものが、裁判所において無効と認定されるといった状況が多く発生する背景には、先行技術調査の程度の差という面が考えられる。すなわち、特許庁は、審査請求のされた出願に類似する技術を、主に、先にされた特許出願のなかから限られた予算(時間)で検索し、無ければ特許と認定するのに対し、特許権侵害で訴えられた被告は、相手の特許を無効にしようと、それこそ血眼になって類似技術を調査する。このような調査は、たとえば、複数の調査会社を利用したり、非常に多くの海外文献や製品にまで調査範囲を広げる、必死の調査である。
・また、特許侵害訴訟にまで発展する事例は、特許侵害として警告等を受けた者が、相手の特許の有効性について客観的に納得できないものが多いという事情も、裁判で無効と認定される特許権が多い理由として考えられる。特許権が有効であるとの認識が高ければ、実施許諾を受ける等して、裁判前に和解することが多いからである。
・このように考えると、今後も、特許権が無効と判断されるケースが頻発することが予想され、特許権は、そのような「ある程度不安定な権利」として認識せざるを得ない。
・そして、特許を保有する企業は、このような状況を考慮して特許戦略を構築する必要がある。少なくとも特許権者は、権利行使をする前に、あるレベルで特許権の有効性を確認しておくことが好ましい。しかし、このような確認作業も、被告が血眼になって無効資料を探すのとは違うので、どの程度の確認をしておくかは悩ましい問題である。
 
(7)ネット上で紹介されたシステムでも無効判断がされたか?
・上記(1)で述べた通り、知財高裁は、Z.控訴審判決の概要の争点3(オ)に示した控訴人主張に基づき、乙18文献(「HPニューウェイブ環境ヘルプ・ファシリティ」)の記載を主たる根拠としてアイコン特許の進歩性欠如を認定した。また、ここでは、ネット上で紹介されたMacの「ヘルプ・ドキュメンテーション・システム」の説明を実質的に含む乙13文献の記載も副次的に参照されている。
・一方、W.知財高裁における判決の行方の「(3)進歩性阻却事由」の項で私たちは、この「ヘルプ・ドキュメンテーション・システム」が控訴審で示されれば、アイコン特許が無効にされるべきと判断される可能性が高いと判断した。では、知財高裁は、乙13文献を主たる根拠としてアイコン特許の無効を判断することはできなかったのだろうか。
・ここで、控訴人は、Z.控訴審判決の概要の争点3(エ)に示すように、乙13文献のシステムに乙17文献の「ボタン」を組み合わせることにより、アイコン特許の発明に容易に相当できたと主張しているが、この進歩性欠如に関する主張は妥当であり、裁判所は、この主張を採用しえたと考えられる。したがって、裁判所は、乙18文献または乙13文献のどちらを採用してもアイコン特許が無効であることを認定することができ、最終的な認定をどちらでするかは、裁量の範囲であったと思われる。
・しかし、控訴人は、Z.控訴審判決の概要の争点3(イ)で、アイコン特許は乙13文献に記載のシステムと「同一」であり、新規性を欠くとの主張をしており、このような主張では、裁判所がこれを採用する可能性は(もちろん、他の主張との兼ね合いもあるが)なかったであろうと予想される。「同一」というのは、乙13文献のシステムが、アイコン特許の特許請求の範囲で定義された構成を全て備えている、いわゆる「ドンピシャ」の状態を言うのである。

 
(8)侵害製品の特定を巡る攻防
・特許権侵害訴訟において原告が勝訴し、侵害製品の廃棄・回収命令がされると、被告はその製品を回収し、その結果、市場から侵害製品が一掃される。しかし、原告が勝訴しても、そのような理想的な状況とならない場合もある。それは、被告の会社が判決に従わない場合である。そのような場合、原告は、執行官による強制的な侵害製品の回収を可能とするために、勝訴判決に基づいて「強制執行」手続の申立を行わなければならない。また、強制執行では、執行官が市場において侵害製品を特定できることが必要である。そのために、従来は、請求の趣旨を、たとえば以下のように明示しなければならなかった。
 「成分○○を△%以上含む樹脂を製造・販売してはならない」
 しかし、請求の趣旨をこのようにすると、執行官は、目の前の樹脂が成分○○を△%以上含むものかどうか判断できず、結局、強制執行ができないという事態に陥ってしまう。
・そこで、東京地裁により、請求の趣旨に関する新たな様式、たとえば、以下のような様式が提言されている。
 「製品番号がA1234で特定される樹脂を製造・販売してはならない」
 このような特定方法により、執行官は、侵害対象の製品を簡単に識別でき、強制執行が容易になる。しかし、この方法は一方で、侵害製品であるにもかかわらず、製品番号や製品名を意図的に変えて製造した場合には強制執行ができず、容易に執行妨害ができてしまうという逃げ道を作ることにもなる(ただし、この場合、原告は、製造・販売禁止の認定を受けた(製品番号等で特定される)製品と、意図的に製品番号等を変えて製造された製品とが同一の構成であることを立証して仮処分申請を行うことにより、速やかにその、製品番号等を変えて製造された製品についても強制執行が可能になる。したがって、被告がこうした姑息な手段をとったとしても実質的なメリットはない)。
 
・控訴審判決において、裁判所は、「なお、別紙イ号物件目録及びロ号物件目録の「商品名」の欄には、単に「一太郎」「花子」と記載されているが、弁論の全趣旨に照らし、被控訴人は、バージョンを問わず、商品中に「一太郎」「花子」を含むものであって、同目録「機能」欄記載の機能を有する製品を、本件訴訟の対象としているものと解される。」として対象製品の絞り込みを図っているが、「「機能」欄記載の機能」は実質的にはヘルプモードの機能で、通常は、パッケージの外側から確認することは不可能である。したがって、このような記載によっても(仮に、原告勝訴との判断がされたとしても)依然として適切な強制執行は難しい状況にある。
 
(9)間接侵害(特許法101条2号)に関する判断は妥当か
・新設された特許法101条2号は、従来の「のみ」の要件を満たしていなくても、所定の要件を満たせば間接侵害が成立するという規定である。同号の要件を今回のケースに当てはめると以下のようになる。
(1)控訴人製品が、アイコン特許に係る物の生産に用いる物であること
(2)控訴人製品が、アイコン特許に係る発明(第1、第2発明)による課題の解決に不可欠な物であること
(3)控訴人が、アイコン特許に係る発明(第1、第2発明)が特許発明であること、及び控訴人製品が、これらの発明の実施に用いられることを知っていたこと
(4)控訴人が業として控訴人製品の製造、譲渡等または譲渡等の申し出をした(している)こと
(5)控訴人製品が、日本国内において広く一般に流通しているものでないこと
 
・知財高裁では、上記(1)から(5)の要件の全てを満たすので、控訴人による控訴人製品の製造・販売等の行為については、特許法101条2号所定の間接侵害が成立すると認定している。ここで、要件(1)〜(4)に関する判断については特に問題がないように思われるが、要件(5)の認定については疑問が残る。
・要件(5)は、取引の安定性確保という観点から設けられたものであり、知財高裁では、この要件(5)について「また、特許法101条2号所定の「日本国内において広く一般に流通しているもの」とは、典型的には、ねじ、釘、電球、トランジスター等のような、日本国内において広く普及している一般的な製品、すなわち、特注品ではなく、他の用途にも用いることができ、市場において一般に入手可能な状態にある規格品、普及品を意味するものと解するのが相当である。本件において、控訴人製品をヘルプ機能を含めた形でパソコンにインストールすると、必ず本件第1、第2発明の構成要件を充足する「控訴人製品をインストールしたパソコン」が完成するものであり、控訴人製品は、本件第1、第2発明の構成を有する物の生産にのみ用いる部分を含むものであるから、同号にいう「日本国内において広く一般的に流通しているもの」に当たらないというべきである」と判示している。
・しかし、控訴人製品は、本当に「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たらないと言えるのだろうか。控訴人製品は、パソコンソフトとして市販されている製品であるという点から考えると「特注品でない」と言える。また、ヘルプ機能がアプリケーションのほんの一部分の機能であることからすると、控訴人製品それ自体は、「他の用途にも用いることができる」と言える。さらに、控訴人製品は、パソコンソフトとして著名であり、広く販売されている製品であることから、市場において「一般に入手可能である」と言える。そうすると、控訴人製品は、「日本国内において広く一般に流通しているもの」であり、故に、要件(5)を満たさず、間接侵害は成立しないとの主張が十分に成り立つように思われる。また、そのように解釈するほうが、取引の安定性確保という当該要件設定の趣旨にも沿うことになる。しかし、残念ながら、この点については、控訴人による主張はされていないようである。
・また、上記判決文中、「控訴人製品は、本件第1、第2発明の構成を有する物の生産にのみ用いる部分を含むものであるから」との理由付けがあるが、特許法101条2号が、「のみ」という客観的要件を緩和して、侵害につながる蓋然性の高い行為を有効に排除する目的で設けられたことからすると、ここで「のみ」という基準を用いることは極めて不自然であると言わざるを得ない。
・これらの点からすると、今回の判決は、大合議のもとでされたものではあるが、少なくとも、市販されているパソコンソフトに関する間接侵害の上記要件(5)については、有効な判例にはなり得ないのではないかと思われる。他方、このような不自然な判断の背景には、アイコン特許が無効であるとの判断が既にあり、その関係で、(アイコン特許が有効である場合にのみ意味がある)間接侵害の是非の検討が重視されなかったという事情があるのかも知れない。