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チョッとひと息
Z  控訴審判決の概要
(2005.10.3)
 
 
 2005年9月30日、知的財産高等裁判所は、いわゆるアイコン特許訴訟について、ジャストシステムの逆転勝訴を言い渡した(知財高裁 平成17(ネ)第10040号 特許権侵害差止請求控訴事件)。ここでは、この控訴審判決の概要をまとめてみることにする。なお、ここで控訴人はジャストのことであり、被控訴人とは松下のことを指す。
(1)控訴審における争点
・争点1 ジャスト製品をインストールしたパソコン及びその使用が、松下のアイコン特許の構成要件を充足するか。
 ジャストは、原審において、「ヘルプモード」ボタンや「印刷」ボタンがアイコンに該当しないことをもって、自社製品がアイコン特許の構成要件を充足しない旨主張していたが、控訴審では、この主張に代え、主に、「第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定」とは、プレス、ドラッグ、&リリースのみを意味し、自社ソフトの機能(クリック、バルーン表示、&クリック)を含まないとの主張を行っている。
 
・争点2 間接侵害(特許法101条2号、4号)が成立するか。
 
・争点3 アイコン特許は、特許無効審判により無効にされるべきものと認められ、その特許権の行使は許されないか。
 ジャストは、原審では、アイコン特許には明らかな無効理由があり、アイコン特許に基づく請求は、権利の濫用にあたるとの主張をしていたが、これを、平成17年4月1日施行の特許法104条の3第1項に基づく特許権の行使の制限の主張に改めた。ただし、このことは法改正に伴うものであり、控訴人の主張の趣旨が変更されたわけではない。なお、新設された特許法104条の3第1項は、特許権侵害訴訟の被告に、訴訟法上の抗弁権を新たに認めたものと解される。
 また、ジャストは、新たに、以下のア〜オ他により、アイコン特許に新規性または進歩性の欠如があり、無効であるとの主張を展開した。
(ア)フレッド・ストーダー著「ハイパープログラマーのためのハイパーツール」(マックチューター1988年7月号)−乙12文献−に記載された発明とアイコン特許の発明が同一である。
(イ)デニー・スレンジャー著「ヘルプ・ドキュメンテーション・システムの概説」(マックチューター1987年11月号)−乙13文献−に記載された発明とアイコン特許の発明が同一である。
(ウ)ナショナル・インスツルメンツ社「ラブビユー〜マッキントッシュのための科学ソフトウエア〜」(1986年発行)−乙14文献−、マイケル・ボーズ=グレッグ・ウイリアムズ著「ラブビュー:実験仮想器具エンジニアリング・ワークベンチ」(バイト・マガジン1986年9月号)−乙15文献−等に記載された発明とアイコン特許の発明が同一である。
(エ)特開昭61-281358号公報(原審で提出)、乙13文献に記載された発明、及びフレッド・ストーダー著「ハイパーカードのユーザーに優しいプログラミング」(マックチューター1987年10月号)−乙17文献−に記載された発明に基づき、容易に発明ができる。
(オ)ヴィッキー・スピルマン=ユージン・ジェイ・ウォング著「HPニューウェイブ環境ヘルプ・ファシリティ」(1989年8月発行)−乙18文献−に記載された発明及び周知技術に基づき、容易に発明ができる。
注1)上記(イ)に示された乙13文献の発明は、アイコン特許に類似するとしてネット上で話題になった「MACTECH VOL. 3, 1987 "Help Documentation System Review"」に掲載されているヘルプシステムと実質的に同じもののようである(このヘルプシステムについては、「W.知財高裁における判決の行方」の(3)進歩性阻却事由を参照のこと)。
 また、(オ)に示された乙18文献のヘルプシステムも、実質的には、上述の(イ)のヘルプシステムと同様の、コンテクスト・センシティビティを有するシステムである。
 
・争点4 ジャスト側が控訴審においてした追加的な主張・立証が、時機に遅れた攻撃防御方法として却下されるべきか。
 民事訴訟法第157条第1項には、「当事者が故意または重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。」との規定があり、松下は、控訴審におけるジャスト側の追加的な主張・立証がこの規定にあたり、却下されるべきであるとの主張をしている。
(2)裁判所における判断
・争点1 ジャスト製品をインストールしたパソコン及びその使用が、松下のアイコン特許の構成要件を充足するか。
 裁判所は、「アイコン」が、原審で示されたとおりの意味であると認めるとともに、控訴人の追加的な主張については、「「本件発明の前記「第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定」との構成要件が、控訴人のいう「プレス、ドラッグ&リリース」のみを意味すると限定して解釈すべき根拠となる記載は一切ない」と断じ、控訴人の主張を退けた。
 
・争点2 間接侵害(特許法101条2号、4号)が成立するか。
 裁判所は、「控訴人製品のインストールにより、ヘルプ機能を含めたプログラム全体がパソコンにインストールされ、本件第1,第2発明の構成要件を充足する「控訴人製品をインストールしたパソコン」が初めて完成するのであるから、控訴人製品をインストールすることは、前記パソコンの生産にあたるというべきである。」とし、この点については原審の判断を支持した。
 また、間接侵害の主観的要件については、原審が平成14年11月7日の別件仮処分の申立書の送達の時からジャスト側が「知った」と判断したのに対し、控訴審では、「別件仮処分の対象物件が控訴人製品でない」ことを理由に、その判断を失当とし、本件訴状の送達を受けた日であることが記録上明らかな平成16年8月13日に、本件第1、第2発明が被控訴人の特許発明であること及び控訴人製品がこれらの発明の実施に用いられることを「知った」ものと認める。
 さらに、裁判所は、特許法第101条4号(方法発明の間接侵害)については、「同号は、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産、譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであって、そのような物の生産に用いられる物を製造、譲渡等する行為を特許権侵害とみなしているものではない。」として、適用を否定した。
 
・争点3 アイコン特許は、特許無効審判により無効にされるべきものと認められ、その特許権の行使は許されないか。
 ジャストは、控訴審において、アイコン特許を無効であると認めさせるために多くの証拠を提出し、主張を行ったが、裁判所は、実質的には、乙18文献の記載を中心とし、さらに乙12文献と乙13文献の記載を参照しながら、本件第1発明〜第3発明が、特許法第29条第2項に違反して特許された(すなわち、進歩性がない)ものと判断した。
 第1発明についての相違点は(第2発明と第3発明については省略)、アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる「機能説明表示手段」が、第1発明では「アイコン」であるのに対し、乙18文献の発明では「スクリーン/メニュー・ヘルプ」アイテムである点にあると認定。しかし、「アイコン」自体は、本件特許権の出願時に周知の技術事項であり、また、乙13文献、乙18文献によれば、同様の手段として「メニューアイテム」も周知の技術事項であったことが認められ、したがって、「アイコン」又は「メニューアイテム」のいずれかを採用するかは、必要により当業者が適宜選択することのできる技術的な設計事項であるというべきであり、当業者が容易に想到出来る程度のものと判断する。
 このことから裁判所は、特許法104条の3第1項に従い、アイコン特許権を行使することはできないと判示する。
 
・争点4 ジャスト側が控訴審においてした追加的な主張・立証が、時機に遅れた攻撃防御方法として却下されるべきか。
 裁判所は、争点4については、以下の点を総合的に考慮した結果、ジャストの追加的主張・立証は、時機に遅れた攻撃防御方法にあたらないと判断した。
(1)原審が訴えの提起から起算してもわずか4月足らずの「短い期間」で行われた。
(2)控訴人の新たな主張・立証は、基本的に、控訴審の審理の「当初」において行われた。
(3)新たに追加された文献(証拠)は、いずれも外国において頒布された英語の文献であった。
(4)上記外国文献が、本件訴えの提起より15年近くも前に頒布されたものであり、これらの調査検索にそれなりの時間を要することが考えられること。
 
・結論
 「よって、被控訴人の請求は、いずれも理由がないから、これを認容した原判決を取り消し、被控訴人の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。」
 
ちなみに、主文は
「原判決を取り消す。
被控訴人の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、第1、第2審とも被控訴人の負担とする。」
 
 つまり、こういうことです。
 松下のアイコン特許は無効理由があるので権利行使は認められず、よってジャストのソフト製品の製造・販売等は、特許権侵害にはあたらない。