バナー1
HOME WHAT'S NEW LINK SITE MAP
ブライト LIBRARY
ブライト FOCUS
チョッとひと息
X  QアンドA
(2005.8.27)
 
 
 アイコン特許訴訟に関連する質問に、ブライトビジョン特許事務所が答えます。質問は、ネット上で多く見かけたものを中心に、当事務所で創作したものを加えて設定してあります。
 ただし、A(アンサー)といっても、絶対的な答えではなく、質問に対するヒントや示唆であったり、当事務所の見解・推測等を示している場合もありますので、その点ご了承下さい。
 
Q1 なぜ、松下は、アイコン特許訴訟において損害賠償を請求しなかったのか?

 一般に、特許権が侵害された場合、特許発明を実施している者に対して、将来における特許発明の実施等を差し止める差止請求と、過去の特許発明の実施行為に対する損害賠償の両方を請求する。 判例検索システム>検索条件指定画面で確認できる特許権民事訴訟(H11.1.1〜H16.6.30)では、59%が差し止めと損害賠償の両方を請求しており、損害賠償のみの請求は26%、差し止めのみの請求は15%となっている(ブライトビジョン特許事務所調べ)。
 
 したがって、差止請求のみを行っている今回のアイコン特許訴訟は、比較的稀な形態であると言うことが出来る。実際のところは不明だが、訴訟において差止請求のみを行い、損害賠償請求を行わなかった理由については、以下のようなものが考えられる。
 
1. 松下の主たる狙いが、アイコン特許のライセンス契約を有利に進めるということであれば、訴訟は、十分なライセンス料を引き出すための手段に過ぎず、どうしても訴訟で損害賠償を請求する必要はなかった。
 
2. 特許権侵害訴訟における損害額の認定の際には、当事者による損害額の主張、立証の応酬で長期間を要し、裁判期間が長期化する傾向にある。そこで、損害額の議論を省略することにより、短期間での解決を狙った。
 
3. 松下は、取材に対して「たしかに直接収益的なメリットはないかもしれない。しかし、我々は『知財立社』を目指しており、今回の件もその戦略の一環だ」と回答しており、今回の訴訟が、「知財立社」への足がかりとなる、「小手調べ」であり、法務部や知財部の人材育成の一環で行われたのではないかという推測もされている。
 
4. アイコン特許は装置、方法に関する特許であるため、「一太郎」等のプログラム製品を、特許法第101条(2号、4号)の間接侵害であるとして、特許権侵害を立証しなければならない事情がある。しかし、この規定は、2003年(H15)1月1日より施行されているため、それ以前の分を侵害と立証することが困難であり、結局、侵害期間としては施行日から現時点までの2年半程度が認められるに過ぎない(本来は、特許権の設定登録がされて以降の実施が侵害とされる)。また、アイコン特許は、GUIのひとつの機能に関するものであるが、「一太郎」等のプログラム全体の機能から見ると、その寄与率は極めて低いと言える。これらのことから、合理的な損害額として認められる額は極めて小さいと予想され、この点について争う価値がないと考えたのかも知れない。
注1) 松下は、「一太郎」や「花子」のようなプログラムを自社で製造・販売していないので、仮に損害賠償請求をするとすれば、通常、ジャスト側が侵害により得た利益の額、または、アイコン特許の実施料(ライセンス料)を基礎として、損害額の請求を行うことになる。
 
 
Q2 松下は、ジャスト製品と競合するソフトを製造していないのに、「一太郎」や「花子」の製造・販売を差し止めることができるのか?

 特許法では、特許権者は、特許権を侵害する者に対して、その侵害の停止を請求することができる旨規定されており(特許法第100条第1項)、今回のケースでは、「侵害の停止」に、プログラムの製造・販売の差し止めが対応する。また、特許権者は、在庫プログラムの廃棄を請求することもできる(特許法第100条第2項)。
 このように、特許権は、非常に強力な権利であり、特許権者自身が特許権に係る製品を製造・販売しているかどうかに関わらず行使することができる。
 ただし、損害額の推定方法については、特許権者が製品の製造等をしているかどうかで異なる場合がある。
 
Q3 松下のアイコン特許は装置に関する特許なのに、なぜ、プログラムに対して権利が及ぶのか?

 特許権の権利範囲は、特許掲載公報に記載された「特許請求の範囲」に基づいて定められる。アイコン特許で定義されているのは、いくつかの構成要件からなる情報処理装置であり、これらの要件すべてを充足する装置が侵害(直接侵害)となる。
 また、「情報処理装置」自体も、権利を構成する1つの要件であり、CDやDVDに記録された状態の「プログラム」は、「情報処理装置」ではないので、直接侵害(文言侵害)にはあたらない。
 しかし、すべての要件を満たさなくても、特許権を侵害する蓋然性の高いものは、一定の条件を満たせば間接侵害と認定され、特許権侵害とみなされる。今回の地裁判決では、この規定により、ジャストの「プログラム」が、松下の「情報処理装置」のアイコン特許を侵害すると認定している。
 
 また、ジャストの「プログラム」を事前にインストールした、いわゆるプリインストールパソコンを販売すると、そのパソコンは情報処理装置となり、直接侵害になる。松下は、2001年から、ジャストホーム2家計簿パックをプリインストールしたパソコンを販売するソーテックに対し、当該ソフトがアイコン特許に関係するものである旨の通知をしているが、これは、まさに「直接侵害」である旨の指摘に基づくもであると考えられる。
 
 ネット上では、以下のような同様の疑問が、数多く見受けられるが、上述のとおり、プログラムの製造・販売であっても侵害(間接侵害)を構成しうることになる。今回の第1審では、間接侵害のための複数の条件をすべて満たしていると認められたために侵害と認定されたが、上記条件の1つでも満たさないものがあれば、装置に関する特許であっても、対応するソフトウエアプログラムの製造・販売を差し止めることはできない。 「松下の持っている特許はワープロソフトではなく、ワープロ専用機に対して権利があるように思うのですが、素人考えでしょうか?」
注2) 間接侵害の規定は、従来より存在していたが、特許に係る物の生産に「のみ」用いられる物であるといった条件があったために、GUIの特許等ではこの規定をプログラムに適用することは困難であった(通常、CDやDVDには、GUI以外のプログラムも当然に含まれており、「のみ」の要件をクリアできないため)。ところが、平成14年の改正により、間接侵害の条件がある程度緩和され、間接侵害の主張、立証が比較的容易になった。
 
 
Q4 マイクロソフトのオフィス製品も「ヘルプモード」を備えていたような気がするが、なぜ、松下は、ジャストだけを相手に訴訟を提起したのか?

 今でも、マイクロソフト社の多くの製品に、(「?」のみが表示されたものですが)「ヘルプモード」ボタンと同様の機能のものを見ることができます。松下はなぜ、ジャストより明らかにソフトの販売数が多いと思われるマイクロソフトを提訴しなかったのか。
 これについては、以下のような理由が考えられる。
 
1. マイクロソフトが、Windows XPといったOSのライセンス供与の際に松下と交わした使用許諾契約書に、パソコン用OSについて、松下が、マイクロソフトやマイクロソフトの子会社に対し、特許侵害を理由とした訴えを提起しないことを誓約する条項(いわゆる、不争条項(非係争条項とも))が定められている可能性が高く、そのために、マイクロソフトに対して訴えを提起できない。
 なお、公正取引委員会は、この不争条項が、不公正な取引方法の第13項に該当し、独占禁止法第19条に違反すると判断しており、2004年7月13日に、マイクロソフトに勧告を行っています。これに対し、マイクロソフトは応諾せず、その後審判に持ち込まれている(報道発表資料(PDF))。
2. 上記1からすると可能性は低いが、マイクロソフトが、松下に対してライセンス料を支払って、またはクロスライセンス等により、実施許諾を受けているということも考えられる。また、訴訟によって対立が明らかとなったので、表向きはジャストだけが対象のように映るが、実際は多くの企業が警告を受け、ライセンス契約に応じているかも知れない。裁判所の統計(平成16年の全地方裁判所における第1審通常訴訟既済事件数)では、平成16年4月〜同年12月までに終局した事件に関し、知的財産権に関する訴えは全体で521件、そのうち、判決がされずに「和解」となった件数は205件に達する。もちろん、訴えの提起前に和解に応じるケースも多く存在することは想像に難くない。
3. 一例にすぎないが、以前、大手電機メーカーの知財部の方に、侵害訴訟の相手をどのように選択するか伺った際の回答は、以下のようなものであった。
・通常、いわゆる大手企業には戦いを挑まない。法務関係の人材や、その知識・経験が豊富で、訴訟費用も潤沢であるため、こちらが勝訴する可能性が相対的に低く、さらに長期戦になりやすいから。
・小規模な企業に対しては提訴しない。侵害製品の販売数が小さく、損害賠償請求等をするメリットが少ないから。
 したがって、ターゲットは、製品の販売数もある程度大きな中規模の企業ということになる。このことは、企業としては当然の戦略なのかもしれない。
4. 判決が出されたことにより、松下がジャストに対して提訴したことが表面化したが、松下は、他の企業に対しても交渉や提訴を行っていたかもしれない。裁判の前に和解が成立したり、裁判中に和解となった場合は、こうした事実が世間に公表されることは(通常)ないので、分からないのである。すなわち、松下が、当初からジャストだけをターゲットにしていたとは限らない。
 
 その他、この質問に関連しては、以下のような趣旨の意見が多く見られた。
「国内のメーカーの首を絞める原因を作るようなものだと思う。連携して海外メーカーに立ち向かう姿勢が欲しい。」
お気に入りの整理
 Windows XP Professional (version 2002 service pack 1)の「お気に入りの整理」のウインドウ表示の一部
 
 ウインドウ右側上部に「?」の表示がされたヘルプモードボタンがある
 
 Paint Shop Pro (version 7.00)のメインウインドウ表示の一部
 
 ウインドウ中央上部に矢印マークと「?」の表示がされたヘルプモードボタンがある
ペイントショッププロ

 
Q5 松下のアイコン特許のような簡単な仕組みに特許権を与えてもいいのか?

 アイコン特許を「簡単な仕組み」と考えている人が多いが、特許は、その「出願時点」で新規性や進歩性があるかどうかで判断されるので、出願時点、すなわち、1989年10月31日より前の時点で、本当に簡単な仕組みだったかどうかを判断する必要がある。
 ジャスト側は、第1審で、キーボード操作により同様のヘルプ表示を行う発明(特開昭61-281358号公報)と、いわゆる仮想キーボードの発明がアイコン特許の出願前にあったとして、アイコン特許に進歩性がないとの主張をしたが、裁判所は、「従来キーボードのキーに担わせていた役割を、現実のキーボードと対応する必然性のない「アイコン」という別個の概念に担わせているものであり、質的に相違する」として主張を退けた。
 仮想キーボードは、あくまでもキーの押下を、画面表示とマウスによって実現するものにすぎず、出願当時に、両方の発明を組み合わせて容易にアイコン特許に想到可能であるとは言えないとの印象を受ける(この判断については賛否両論ある)。したがって、アイコン特許は、少なくとも、第1審で提出された引用例に対しては進歩性を有しており、出願時点では簡単な仕組みではなかったと考えても不合理とは言えない。
 
 ただし、控訴審において、ジャストは、証拠としてMacのヘルプシステムに関する記事を提出し、アイコン特許に進歩性がないとの主張をしている。このヘルプシステムは、アイコン特許の構成と極めて近く、キー操作でなく、マウスでアイコンを指定するといった示唆もあるため、ジャストの主張が認められれば、特許は無効とされ、「はじめから」なかったものとされる。
 
Q6 そもそも、ソフトウエアを特許で保護する必要はあるのか?

 近年、ソフトウエア特許に関する判決も多くなり、注目度が高まってきたが、一旦、特許権として認められたものが訴訟で無効と認定される場合もあり、その保護の必要性が問われている。権利者は、特許権が正当な権利であることを前提に権利行使するので、特許庁には、より厳密な審査が求められています。
 また、ヨーロッパでは、大論争のなかで一部のソフトウエアについては特許が認められておらず、日・米・欧間における特許相互認証を目指した世界特許システムの構築が叫ばれる状況で、ソフトウエア特許の扱いは、世界的に一本化されたものとはなっていない。
 しかし、日本における特許制度の趣旨に鑑みれば、ソフトウエアで実現されるアイデアは、他のアイデアと同様に特許で保護されるべきものではないかと考えられる。特許制度は、公開を代償としてアイデアを一定期間保護することにより、産業の発達に寄与しようというものであり、公開されたアイデアや特許として実施されたアイデアが新たなアイデアの種となり、特許権による利益が発明へのインセンティブを生み出すことになる。特許制度がない場合は、折角、多額の投資をして創作したアイデアが簡単に他人に利用されることになり、その結果、誰も新たな開発・研究を行わなくなってしまい、最終的には産業の衰退を招くものと考えられている。このように、保護が必要なアイデアから、特段、ソフトウエアによって実現されるアイデアを除く理由はないと思われます。
 ところで、もっとも重要なことは、みなさんの会社が法治国家で事業を営んでいるということである。ソフトウエア特許のあり方や将来について議論することは、もちろん重要なことであるが、今現在、ソフトウエア特許が認められ、権利侵害によって製品の製造・販売の差し止めや損害賠償責任を追及されるというリスクがあることは紛れもない事実である。したがって、自社のアイデアをどのように権利化していくかや、他社権利の侵害をどのように回避するかについて十分な検討を継続的に行っていくことが必要である。企業の経営者や、そこで働き、その企業とある程度運命を共にする方々は、学者や評論家の立場とは違うということを認識しなければならない。いま現在、実際に特許されているソフトウエア特許を概観するならコチラ
 
Q7 今回の訴訟で、ジャストの「ヘルプモード」ボタンは、「アイコン」と判断されたが、別の訴訟では、ボタンに「?」マークのみが表示されているために「アイコン」でないと判断されている。同じ機能のボタンなのに、ボタンの表示だけで、特許侵害になったりならなかったりするのはなぜか?

 今回の訴訟では、「ヘルプモード」ボタンが「?」マークとマウスの絵からなり、アイコン特許の構成要件を充足すると判断され、一方、当事者が同じ別の訴訟(平成15年(ワ)第18830等 特許権 民事訴訟事件)では、「ヘルプモード」ボタンが「?」マークのみからなり、アイコン特許の構成要件を充足しないと判断されている。
 「?」マークとマウスの絵からなるボタンと、「?」マークのみからなるボタンは、デザイン上のわずかな違いだが、端的に言えば、前者はアイコン特許の権利範囲に属し、後者は属さないと判断された。ちょうど、そのわずかな間に権利の線引きがされたことになる。
 特許権の権利範囲は、前述のように、特許請求の範囲に記載された請求項に基づいて判断される。したがって、請求項に使われた用語がなにを意味するかという点が問題になってくる。今回、裁判所では、「アイコン」という用語を、「「アイコン」とは,「表示画面上に,各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示して,コマンドを処理するもの」であり、・・・」としてとらえ、「?」マークのみからなるボタンは、「絵又は絵文字として表示し」たものでないと判断した。
 アイコンに関して「絵又は絵文字として表示し」といった認定をしたことの是非はともかく、わずかな違いであっても、用語の意味に応じて侵害、非侵害が切り分けられる。もしアイコン特許の特許請求の範囲に、「アイコン」の代わりに、もっと明確で広い範囲を表す用語が使われていたら、両方のボタンとも侵害とされていたのではないだろうか。
 
Q8 松下が特許侵害であると訴えた部分は、マイクロソフト製OSにおける標準機能ではないか。よって、特許が仮に有効なものであったとしても、特許侵害しているのは ジャストではなく、マイクロソフトであると考えるのが妥当ではないか?

 特許権の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された請求項に基づいて判断される。ここで、アイコン特許の請求項1は次のようなものである。
・ アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン,および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段
・ 前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段
・ 前記指定手段による,第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段
 を有する情報処理装置。
 
 この各要件のすべてを満たすものが権利侵害とされる。
 ここで、マイクロソフトが備える標準機能(たとえば、HelpContextプロパティの機能)は、指定されたコンテキストIDに対応するトピックのヘルプをHelpFileから取得し、表示するものである。
 
 この標準機能を上記各要件と対比すると、この機能には、あきらかに第1のアイコンの指定や第2のアイコンの指定を制御する部分がなく、直接侵害を構成しない。この機能を利用してプログラミングした結果、アイコン特許の各要件を充足することになったのが、ジャストの「一太郎」や「花子」のGUI部分だということになる。
 ただし、マイクロソフトによる標準機能の提供が、間接侵害となる可能性は残る。
 
Q9 ジャストは、「?」と「マウスの絵」が表示されている「ヘルプモード」ボタンを、「?」のみを表示するようにする、ヘルプボタン変更モジュールを提供開始したが、ユーザは、この変更をしないと特許侵害になるか?

 ジャストは、今回の第1審の判決を不服として控訴しているので、判決自体は確定しておらず、また、仮執行も付されていないので、確定するまでは、判決の効力がユーザに及ぶことはない。
 また、特許権侵害となるのは、特許発明を「業として」実施した場合であり、たとえ、訴訟において侵害であるとの判決がされたとしても、家庭で個人的に「一太郎」等を使用して特許権侵害に問われることはない。
 一方、「業として」、すなわち、事業でこれを使用等する場合は、特許権侵害となるので、会社等で使用している方は、判決の結果を注意深く見ておく必要がある。ただし、ジャストが提供するヘルプボタン変更モジュールをインストールすれば、(差し止め請求に関しては)基本的に問題はなくなる。
 また、ヘルプボタン変更モジュールをインストールしなくても、松下が、各ユーザを特許権侵害で個々に訴えるということは考えにくいので実質的な問題はないと思われるが、訴えられる可能性はゼロではない。
 
Q10 松下とジャストは、ある分野において提携関係にあったようだが、特許侵害訴訟の提訴においては、そのような関係は考慮しないのか?

 たしかに、松下とジャストには間接的なパートナーシップが存在するようである。たとえば、松下の完全子会社であるパナソニックソリューションテクノロジーは、ジャストとナレッジマネージメントシステムの「ConceptBase」でパートナーシップを結んでいる。また、パナソニックソリューションテクノロジーは、簡単に一太郎文書に変換できるOCRソフト「一発!OCR Pro3 for 一太郎」の開発、販売でもジャストと提携しており、同ソフトの最新版は、2005年2月10日に発売されている。
 しかし、いくつかの企業にヒアリングすると、「それとこれとは別」とのスタンスをとっているところが多い。同様に松下も、訴訟の件は、提携関係の件とは切り離して判断したものと思われる。
 
Q11 松下がジャストを訴えたことについて、松下に抗議が殺到し、不買運動にまで発展しているようだが、今回の松下の行為は非難されるべきものなのか?

 アイコン特許訴訟の判決に関して、松下に抗議するサイトが署名を募集し、約2週間でおよそ2000件の署名が集まりました。6ヶ月後には4000件に達しました(中には、ひやかしの書き込みも多く見られるが)。
 署名を募集した三浦氏は、同サイトで、今回の特許は「頻繁に目にするありふれた機能のひとつ」であり、「今回の松下電器の取った行動はまったくもって不法な点は見受けられません。しかし、企業倫理の観点から見れば弁解の余地なく正当性を欠いていることは論を待ちません」、「願わくば、松下電器産業が自省して、産業界のリーダーとしてあるべき姿を取り戻してくれることを」といった意見を掲載している。
 三浦氏の言うように、松下の訴訟は、正当に取得した特許権に基づく権利行使であり、非難されるべきものではないが、これだけの抗議を受ける背景には、おそらく、以下のような点があるのではないだろうか。
 1.特許の内容が、少なくとも現在では、ありふれた機能のように映ること
 2.訴訟の相手が、マイクロソフトでなく、最近、そのマイクロソフトに(特にワープロ部門では)押され気味の国内メーカーであったこと
 
Q12 今回の訴訟で、バルーンヘルプのような簡単な技術を特許として認めた特許庁や、ジャストの特許侵害を認めた裁判所の判断に問題があるのではないか?

1.特許庁について
 特許庁は、出願人から審査請求があると、関連する先行技術を調査し、審査対象の発明が、先行技術と同じものでないかどうか(新規性)、および先行技術から容易に考えつくことができないものかどうか(進歩性)を主たる観点として、その発明を特許として認めるか否かを判断する。そして、本来特許として認められるべきでない特許は、先行技術の調査漏れや、審査官の認定の誤りなどによって生み出される。
 今回、仮に、控訴審で新たに提出された外国の刊行物に記載された先行技術(たとえば、Macのヘルプシステム)によってアイコン特許が無効と判断されれば、結果的に先行技術調査が十分でなかったということが言えるが、外国の刊行物まで調査範囲とするのは現実的に難しいのではないかと思われる。先行技術の調査対象は、国内の出願書類が中心となっているが、その理由は、これらのインデックス化が進んでいて検索が容易であり、当時の主たる高度技術が開示されていることが期待されるためであり、また、調査期間や費用の面から言ってもこうした範囲を中心とせざるを得ないであろう。
 ただ、近年は、特許権が認められた後に、訴訟において特許権が無効理由を有すると認定されることが多く、その意味では、調査範囲・精度を含めた審査制度に関するなんらかの改善が必要かもしれない。
 また、訴訟で当事者になりうる企業が、特許庁に対して、関連情報を積極的に提供し、他社の特許成立を阻止し、特許権の無効化を図ることも重要である。
 
2.裁判所について
 裁判所は、当事者の主張しない事実をもって判断の基礎とすることはできない(弁論主義)。今回の第1審の判断については、賛同できない部分もあるが、控訴審でジャストが第1審と同じような主張、立証をすれば、同じ結果になったであろうと思われる。
 
Q13 商用プログラムのGUIは良くできているので、真似をしてプログラムを作ることが良くあるが、今回のようなヘルプモードが特許侵害になるなら、自分のプログラムも特許侵害になるのか?

1. 他社のプログラムのGUIの仕組みを模倣した場合は、特許侵害の可能性があるので十分注意すべきである。その仕組みが特許かどうかを判断するのは困難であるが、例えばプルダウンの仕方や表示の仕組みが今までのものと違い斬新であるような場合は、特許となっている可能性があるので、より慎重に判断すべきである。デザインだけを真似たような場合は特許権侵害の可能性は低いが、著作権侵害の可能性があるので、この点についても注意が必要である。 2. あなたのプログラムが、自宅のパソコンのみで起動する趣味程度のものであれば、他人の特許権の存在を意識する必要はないが、ソフト開発会社等で製品として作る場合は特許侵害となりうるので、特許権があるかどうか調査したり、特許権を有する企業に対してライセンス交渉を行う等の対処をする必要がある。また、フリーソフトとして頒布するような場合であっても、「業としての実施」に該当する場合があるので注意が必要である。
 
Q14 ヘルプ機能は基本ソフトの「ウィンドウズ」の機能の一部で「ポップヒント」と呼ばれ多くのソフトに使われており、問題となった一太郎のヘルプ機能は、1996年から搭載されている。松下のアイコン特許が成立したのはその後であり、広く浸透した技術が9年もさかのぼって違法とされるのか?

 特許の登録要件(新規性や進歩性)は、「出願時」を基準として判断されるので、その時点、すなわち、アイコン特許でいうと1989年10月31日より前に、同一または類似の技術があったかどうかが問題になる。したがって、アイコン特許が「成立した」時点より前に広く浸透していた技術であっても、特許権を侵害するものとされる。ただし、特許権者が特許権に基づく権利行使を行うことができるのは、当然ながら、特許権が成立した後からというこになる。
 
Q15 最近では自社の特許を解放するのが流行だが、松下の訴訟は、そうした流れと逆行するものではないか。米IBMは2005年1月11日に500件の特許をオープンソースソフトウェアの開発者に無償提供し、同1月25日には米サン・マイクロシステムズが、特許1670件を開放した。

 米IBMと米サン・マイクロシステムズの2社はいずれも、オープンソースに関する特許を開放したが、背後には、オープンソースである特定のOSに対する思惑が見え隠れする。したがって、この件は、米国の大手企業が多数の財産権を好意的に手放したと捉えるべきではなく、企業としての一定の目的や、したたかな計算があると考えるべきである。松下の今回の訴訟は、基本的には、正当な権利行使であり、このような2社の行為と同列に考えるべきではない。
 
Q16 ジャストは松下のアイコン特許に対して無効審判をしていないようだが、それはなぜか?

 特許権侵害訴訟の被告の多くは、訴訟において被告製品が特許権の範囲にあたらない点や、その特許権に明らかな無効理由がある等の反論を展開する一方で、その訴えの基礎となった特許権を消滅させるべく、特許庁に対して無効審判を請求する。特許庁によって特許が無効と認められ、それが確定すると、特許権は通常「はじめかなかった」ものとされるため、その特許権に関する訴訟も終了する。最近では、第1審で約74億円という多額の賠償金支払いを命じたアルゼvs.サミーの控訴審の審理中に、被告が請求した無効審判により、アルゼの特許権(いわゆるCT(チャレンジタイム)特許、パチスロ特許:特許第1855980号)が無効とされた。
 今回の件でも、ジャストは無効審判を請求すべきであったと考えられるが、これを請求しなかった理由としては、一応以下のようなものが考えられる。
 ・特許庁で無効審決がされたとしても、その後、審決取消訴訟が、高裁、最高裁に持ち込まれることが予想され、早期の決着ができない。
 ・知財高裁における特許権侵害訴訟で、アイコン特許に明らかな無効理由があるとの認定がされれば十分であり、対世的な効力まで求める意思がない。
 
 さらに、無効審判を行わない他の理由として考えられるのが、無効審判のルートで特許権の無効を主張する場合の「限界」である。
 無効審判での審決について取消を求める審決取消訴訟においては、無効審判で主張した証拠(引用例)についてのみ審理が行われ、審決がされた後に発見された新たな引用例について審理することはできないとされている(メリヤス編機事件(最高裁昭和51年3月10日、大法廷判決・民集30巻2号79頁))。すなわち、審決取消訴訟における審理範囲は、無効審判手続きで審理判断された特定の無効原因に関するものに限られ、それ以外の無効原因には及ばないのである。その理由は、特許庁は技術専門行政庁であり、特許等の処分については、まず常に専門的知識経験を有する審判官による審判の手続きを経由すべきであり、当事者には訴訟の前段階として特許庁の審理判断を受ける利益があることによる。
 これに対して、侵害訴訟においては、このような制限はなく、実際に、このケースでも、一審判決の後に見つかった引用例を二審で提出し、それによってアイコン特許の無効認定を引き出している。
 2003年から2006年にわたる特許権侵害訴訟の地裁第一審を見ると、このように、無効審判を請求することなく、侵害訴訟においてのみ特許権の無効を主張しているケースが毎年、2割から3割程度認められる。
 
Q17 控訴審において、松下のアイコン特許は無効にされるべきと認定され、最終的に判決の確定に至ったが、これにより、我々第三者は、アイコン特許の機能を自社ソフトに自由に組み込むことができると考えてよいのか?

 松下のアイコン特許が無効にされるべきという判断は、あくまでも当事者間(ジャストと松下)で意味を持つものであり、アイコン特許が特許庁によって(無効審判で)無効にされないかぎり、依然として、特許権としての対世的効力が残っている。ジャストは特許庁に無効審判の請求を行うつもりは、もはやないようである。
 したがって、第三者は、控訴審判決によってアイコン特許に係る発明を自由に使えると考えては(基本的には)いけない。ただ、松下がこのような第三者に対して、ふたたび特許権侵害訴訟を提起するとは考えにくい(その第三者は、訴訟になった場合、ジャストと同様の主張を行うことにより勝訴できる可能性が高い)。
 また、アイコン特許の存続期間は、2009.10.31であるため、それ以降の利用であれば、特許権侵害で訴えられるというリスクは完全にゼロになる。