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チョッとひと息
V  訴訟(第1審)の概要
(2005.8.17)
 
 
 ここでは、2004年8月5日、松下によって提起され、2005年2月1日、東京地裁で判決が言い渡された事件(平成16年(ワ)第16732号 特許権侵害差止請求事件)について概要を説明する(この事件は、Z.控訴審判決の概要に示すように、知財高裁での審理(平成17年(ネ)第10040号事件)を経て、2005年9月30日に判決がされた)。
(1)松下の訴え
 松下は、ジャストが販売するソフト(一太郎、花子)の機能が、自社のアイコン特許(特許番号 第2803236号)の権利範囲に含まれるとして、当該ソフトの製造・販売等の中止と、廃棄を請求した。
(2)アイコン特許の権利範囲
 特許権の権利範囲は、特許公報に記載されている「特許請求の範囲」に基づいて定められる。アイコン特許の特許請求の範囲には第1から第3の3つの発明が記載されている。第1発明は、情報処理装置であり、第2発明は、第1発明の機能をさらに限定した情報処理装置。第3発明は、第1発明の情報処理装置に対応した情報処理方法。
  
◇第1発明は、以下の3つの手段を有することを特徴とする情報処理装置である。(特許請求の範囲の記載に基づく表現)
・A アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン,および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段
・B 前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段
・C 前記指定手段による,第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段
 
◇分かり易く表現すると、以下のようになる。
 第1のアイコンを指定した後、引き続いて、所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを指定すると、表示画面上に第2のアイコンの機能説明を表示させるように制御が行われる情報処理装置。
注1)この表現は、発明を分かりやすく表す目的でされたものであり、実際の権利範囲の属否についての判断は、あくまでも特許請求の範囲の記載に基づいて行われる。
(3)問題となった一太郎・花子の機能
 松下が問題としている機能は、「ヘルプモード」機能であり、動作の概略は以下のようなものである。
・A 一太郎または花子の編集画面を表示させた状態で、同画面のツールボックス内の「ヘルプモード」ボタンをクリックする。
・B 次に、ツールボックスの他のボタン(たとえば、「印刷」ボタン)をクリックする。
・C 「印刷」ボタンがクリックされると、その「印刷」の機能に関する説明が表示される。
 
 ここで、一太郎2004のスクリーンショットを参照して、「ヘルプモード」機能を具体的に見てみることにする。
1. 編集画面上部のツールボックス右側に、「ヘルプモード」のボタン(マウスの絵と?マークが表示されたもの)が表示される。
ヘルプモード
2. マウス等で「ヘルプモード」ボタンにカーソルを移動させると、そのボタンの境界線が表示され、同時に「ヘルプモード(Shift+F1)」の文字がポップアップ表示される。
ヘルプモード
3. 次に、「ヘルプモード」ボタンをクリックすると、カーソルが矢印から、矢印+?に変化する。この「矢印+?」のカーソルは、ウインドウズで標準的に用意されているデザインのものである。
ヘルプモード
4. 「矢印+?」のカーソルを、印刷ボタンの上に移動させる。このときの移動は単なるマウスの移動であり、マウスボタンを押しながらの、いわゆるドラッグ操作ではない。
ヘルプモード
5. ここで、マウスをクリックすると、印刷ボタンの機能の説明がポップアップ表示され、「矢印+?」のカーソルは、通常の矢印のカーソルに戻る。このカーソルで、再度印刷ボタンをクリックすると、印刷実行のための設定画面のウインドウがオープンする。
ヘルプモード
 
(4)裁判における争点
・争点1 「ヘルプモード」ボタンおよび「印刷」ボタンは、アイコンに該当するか。
 特許権侵害が成立するか否かは、(本件の場合)被告ソフトのインストールされたパソコンが、アイコン特許の特許請求の範囲に記載された各構成要件を満たすかどうかで判断される。この判断の際に、アイコン特許の特許請求の範囲に記載された「アイコン」が、概念的に、被告ソフトの「ヘルプモード」ボタン、「印刷」ボタンを含むかどうか、が争われた。
・争点2 間接侵害(特許法101条2号、4号)が成立するか。
 松下のアイコン特許は、装置(第1発明、第2発明)と方法(第3発明)に関するものであり、一方、ジャストの製品は、CDやDVDといった記録媒体に記録され、市場に置かれるソフトウエアである。CDやDVDに記録されたプログラムは、第1発明の表示手段、指定手段、制御手段を有しておらず、直接侵害である(すなわち、アイコン特許の権利範囲に属する)ということはできない。
 このような場合、松下は、ジャストのソフトが間接侵害にあたるとして、権利侵害を主張することになる。間接侵害は、特許権の有効な保護を図るために、侵害の蓋然性が高い一定の行為を侵害とみなす特許法上の規定。平成14年の改正により、ソフトウエアの製造・販売によって、装置に係る特許が侵害されたとの主張が比較的容易になった。
・争点3 アイコン特許に無効理由が存在することが明らかか否か。
 従来、特許権は特許庁での適式な手続きを経て付与されたものであり、裁判所は、それが有効なものであることを前提とし、訴訟において特許権自体の有効性を判断することはなかった。しかし、明らかな無効理由がある特許権については、権利濫用であるとして権利行使を認めない旨の最高裁判決があって以降、同様の判示がされるようになった。
 被告であるジャストとしては、裁判所に、松下のアイコン特許に明らかな無効理由があることを認めさせることができれば、松下の権利行使を免れることができる。
(5)裁判所における判断
・争点1 「ヘルプモード」ボタンおよび「印刷」ボタンは、アイコンに該当するか。
 アイコン特許の出願前の文献等から、裁判所は「本件発明にいう「アイコン」とは,「表示画面上に,各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示して,コマンドを処理するもの」であり,かつそれに該当すれば足りるのであって,本件明細書の記載によっても,本件特許出願当時の当業者の認識においても,それ以上に,ドラッグないし移動可能なものであるとか,デスクトップ上に配置可能なものであるなどという限定を付す根拠はないというべきである。」と判断する。
 また、裁判所は、「被告製品の「ヘルプモード」ボタン及び「印刷」ボタンは,別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載のとおり,表示画面上に,各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示して,コマンドを処理するものである。」と判断し、「被告製品の「ヘルプモード」ボタン及び「印刷」ボタンは,本件発明における「アイコン」に該当する。」と結論付けた。
 
・争点2 間接侵害(特許法101条2号、4号)が成立するか。
 裁判所は、アイコン特許の特許請求の範囲と被告ソフトをインストールしたパソコンの各構成要素を比較し、「被告製品をインストールしたパソコン及びその使用は,本件発明の技術的範囲に属するものである。」と判断する。
 また、裁判所は、被告製品が
 ・「被告製品をインストールしたパソコン」の生産に用いるものであること。
 ・「(従来の方法では)キーワードを忘れてしまった時や,知らないときに機能説明サービスを受けることができない」という本件発明による課題の解決に不可欠なものであること。
 ・「日本国内において広く一般に流通しているもの」でないことは明らかであること。
 ・被告は,遅くとも,平成14年11月7日に原告が申し立てた仮処分命令申立書の送達の時以降,本件発明が特許発明であること及び被告製品が本件発明の実施に用いられることを知ったものと認められる。
 と判断し、「特許法101条2号及び4号所定の間接侵害が成立する。」と認定した。
 
・争点3  アイコン特許に無効理由が存在することが明らかか否か。
 ジャストは、操作説明キーと機能キーを連続して入力すると機能キーの処理内容が表示される「ワードプロセッサの機能説明表示方式」(特開昭61-281358号公報)と、いわゆる「仮想キーボード」等を組み合わせることにより、容易にアイコン特許に想到することができると主張するが、裁判所は、アイコン特許は、現実のキーボードのキーと対応する必然性のない「アイコン」という別個の概念に担わせているものであり、一方、「ワードプロセッサの機能説明表示方式」では、表示画面上のアイコンというもの自体が全く想定されておらず、また、この方式について、キーボードのキーをこれとは質的に相違するアイコンに置き換えることを示唆する刊行物はないと判断する。
 この結果、裁判所は、「ワードプロセッサの機能説明表示方式」と「仮想キーボード」等を組み合わせても、アイコン特許に相当することが容易であったとは言えないとし、アイコン特許が依然として進歩性を有し、無効理由が存在することが明らかとであるということはできないと判示した。
 
・結論
 「以上のとおり,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言は相当でないから付さないこととする。」
 つまり、こういうことです。
 松下のアイコン特許は明らかな無効理由を有さず、ジャストのソフトがインストールされたパソコンはアイコン特許の構成要件をすべて満たしており、当該ソフトの製造・販売等は、アイコン特許の間接侵害にあたる。したがって、松下の請求通り、ジャストに、ソフトの製造・販売等の中止と廃棄を命ずる。