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チョッとひと息
W  447特許の概要と無効審判
(2006.3.17)
 
 
 ここでは、特許権侵害訴訟において主張がされているもう一つの権利、447特許について検討する。ANAは、409特許と同様、2005年2月25日に447特許についても無効審判を請求している。その後、特許庁から無効理由通知が示され(2005年10月5日)、これに対しJALIは、409特許の場合と同様に、実質的に補正を元に戻す訂正請求書を提出する(2005年11月4日)。最終的には、特許庁から、請求(無効審判の請求)は成り立たない旨の審決が下され、その後、審決確定に至り(2006年5月31日)、447特許は存続することとなった。
 
(1)447特許の概要
 特許権侵害訴訟では、請求項1に係る第1発明と、請求項2に係る第2発明に基づく権利主張がされている。下表に、第1発明を分説したものを示す。なお、本件特許出願は、409特許に係る特許出願(特願平10-147997)を原出願とする第三世代分割出願(すなわち、原出願の曾孫出願)にあたり、実質的には原出願と同じ明細書および図面の記載から請求項1、2の記載が導かれていることになる。
・A1 航空券予約を受けて搭乗券を発行する搭乗券発行機関に設けられたホストコンピュータと、
・A2 各ユーザ機関に設けられた汎用パソコンと、
・A3 空港に設けられた搭乗券発券機と、
・A4 各ユーザ機関内の利用者個人に関する利用者ID情報が記録されたID記録媒体と、
を備えたID情報利用の搭乗券発行システムであって、
・B 各ユーザ機関の汎用パソコンは、
  B1 搭乗券発行機関に対して各ユーザ機関及び当該ユーザ機関内の利用者個人のID情報を用いて航空券予約申請を行う予約申請機能を有し、
・C 搭乗券発行機関のホストコンピュータは、
  C1 汎用パソコンからの航空券予約申請に基づいて航空券予約を成立させる予約受領機能と、
  C4 前記航空券予約のために汎用パソコンによって用いられた各ユーザ機関のID情報に基づいて、各ユーザ機関毎に料金請求額を算出する機能と、を有し、
・D 空港の搭乗券発券機は、
  D5 前記ホストコンピュータに接続されており、
  D1 ID記録媒体から利用者ID情報を読取るID読取機能と、
  D6 前記航空券予約のために汎用パソコンによって用いられ当該航空券予約の成立のために前記ホストコンピュータによって用いられた利用者個人のID情報と搭乗券発券機にて読取った利用者ID情報とを照合して、当該照合結果に基づいて対応する航空券予約情報に基づく搭乗券を発券する発券機能と、を有する
ことを特徴とするID情報利用の搭乗券発行システム。
 第1発明は、409特許の第1発明と類似する構成であり、色つきで示された部分が409特許と異なる点である。また、409特許のC2、C3、D2〜D4に対応する記載はない。
  
◇次に、第1発明で定義された搭乗券発行システムの概要を、下の図を参照して分かり易く解説する。ここでは、システムを理解し易いように、システムの各処理を簡略化された図と、多少かみ砕いた表現で説明するが、実際の権利範囲の認定は、あくまでも「特許請求の範囲」の記載に基づいて行われる。
JALシステム
・第1発明の搭乗券発行システムは、搭乗券発行機関に設けられたホストコンピュータ(A1)、各ユーザ機関に設けられた汎用パソコン(A2)、空港に設けられた搭乗券発券機(A3)、及びID記録媒体(A4)を含む。
◆予約フェーズ
・汎用パソコン(A2)で、ID情報を用いて航空券の予約申請が行われると(B1)、ホストコンピュータ(A1)が当該申請を受領し、この申請に基づいて航空券予約を成立させる(C1)。
◆発券フェーズ
・搭乗券発券機(A3)は、ホストコンピュータ(A1)に接続され(D5)、予約申請をしたユーザ機関の社員がID記録媒体(A4)を挿入したときに、そこからID情報を読み取り(D1)、そこで、読み取ったID情報と、ホストコンピュータ(A1)から送信されたID情報とを照合し、たとえば、そのID情報が一致したら、航空券予約情報の内容に応じた搭乗券を発券する(D6)。
◆精算フェーズ
・ホストコンピュータ(A1)は、汎用パソコン(A2)によって用いられたID情報に基づいて、各ユーザ機関毎の請求額を算出する(C4)。
 
 409特許(第1発明)との大きな相違点は以下のとおりである。
・ホストコンピュータは情報蓄積機能を持たず、発券結果情報によらずに、すなわち航空券予約情報のみで料金精算額を算出する。
・ホストコンピュータは待機指令を搭乗券発券機に送信せず、そのため、搭乗券発券機は、発券に際して、ホストコンピュータから航空券予約のために用いられたID情報を取得し、照合を行う。
 また、409特許(第1発明)と同様、ID記録媒体から読み取られた「利用者個人のID情報」と、ホストコンピュータから送信され、航空券予約の成立のために用いられた「利用者個人のID情報」とが搭乗券発券機において照合される。
(2)無効審判
 (2)−1 請求の理由
◆理由1
 特許法第29条2項(特許法第123条第1項第2号) 進歩性の欠如:請求項1、2に係る各特許発明は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明、並びに周知及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
  ・特開昭63-173159号公報
  ・特開平8-96050号公報
  ・JAS「スカイコートPorte」に関する記事(日経マルチメディア1998年6月号、P20-21)
◆理由2
 特許法第29条2項(特許法第123条第1項第2号) 進歩性の欠如:請求項1、2に係る各特許発明は、本件出願前に公然知られた発明、並びに周知及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
  ・本件明細書に記載された従来の搭乗券発行システム
  ・ANAの従来システム「able-Q」に関する記事(ANA Travel Flyer vol.1)
  ・航空券予約に関する記事(日経PC21 1998年1月号,P198-201)
  ・JAS「スカイコートPorte」に関する記事(日経マルチメディア1998年6月号、P20-21)
◆理由3、理由4
 特許法第17条の2第3項(特許法第123条第1項第1号) 新規事項の追加:本件特許の出願手続きにおいてなされた手続補正は、出願当初の明細書等に記載された事項の範囲を超えた補正であり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
◆理由5
 分割要件の不備:本件特許に係る出願は、分割要件を満たしておらず、特許法第44条第2項に規定する出願日の遡及は認められない。  特許法第29条2項(特許法第123条第1項第2号) 進歩性の欠如:請求項1、2に係る各特許発明は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
  ・特開平11-339076号公報
◆理由6、理由7
 特許法第36条第6項第2号(特許法第123条第1項第4号) 特許請求の範囲の記載要件不備:請求項1、2に記載された発明は不明確であり第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
 
 (2)−2 無効理由通知書の内容
 上述のように、請求人(ANA)は、理由1から理由7までを請求の理由として無効審判の請求を行ったが、特許庁は、被請求人(JALI)が2002年11月20日付けでした補正に関連して3つの無効理由を示している。無効理由の概要は以下のとおり。なお、この理由に関しては、請求人により、上述の理由3、4、6、7において、一部が指摘されている。
◇理由1
 2002年11月20日付けの手続補正書によって補正された事項は、本件特許の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものである。概略は以下のとおり。
  ・補正により、ホストコンピュータが「発券結果情報」に関係する「情報蓄積機能」を持たなくなったため、料金の算出が発券結果情報に基づかないものとなったが、当初明細書には、各ユーザ機関に請求される料金は、航空券予約情報に発券結果情報を加味した上で(すなわち、予約があっても搭乗券を発券しなかったものについては請求の対象になっていない)、各ユーザ機関毎に料金に関与するデータを集計することにより算出されるとの記載しかなく、当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものでない。
  ・補正により、搭乗券発券機はID記録媒体から読み取った利用者ID情報と、利用者個人のID情報とを照合するものとなったが、このことは、当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものでない(409特許に関し、無効理由通知の理由1で示された理由と同様)。
  ・補正により、ホストコンピュータが有する「待機指令機能」が削除されたため、搭乗券発券機は、ホストコンピュータから航空券予約情報が送信されていなくても、搭乗券を発券可能な構成となった。しかし、このような構成は、当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものでない。
◇理由2
 本件特許の請求項1、2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した発明でないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである。
  ・詳細な説明に記載された発明においては、「利用者個人および当該ユーザ機関に関するID情報」以外の情報によって照合等が行われることを示唆する記載、あるいは、発券結果情報を用いずに料金請求額を算出することを示唆する記載は見あたらない。
◇理由3
 本件特許の請求項1、2に係る発明は、下記の点が明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである(409特許に関し、無効理由通知の理由3で示された理由と同様)。
  ・「各ユーザ機関内の利用者個人に関する利用者ID情報」と「利用者個人のID情報」は、同じ意味であるにも関わらず異なる用語となっており明確でない。
  ・ID記録媒体には「利用者個人のID情報」が記録されており、一方、搭乗券発券機が「ID記録媒体」から読み取る情報は「利用者個人および当該ユーザ機関に関するID情報」であり、矛盾がある。
 (2)−3 無効審判の行方
 ・特許庁から示された無効理由はすべて、2002年11月20日の補正に関連するものである。指摘された内容は、409特許の無効理由と類似する点が多い。
 ・被請求人は、この無効理由通知に応答して、意見書および訂正請求書を提出している。意見書では、特に審判官の認定内容について争わず、請求項1を削除し、請求項2を訂正することにより特許の維持を試みている。訂正請求書では、出願当初の明細書等には記載されているものの、訂正前の請求項1、2には記載されていない「待機指令機能」と「情報蓄積機能」が加えられ、搭乗券発券機における照合が、「利用者個人のID情報」の照合から、「各ユーザ機関内の利用者個人及び当該ユーザ機関に関するID情報」の照合に変更されている。
 ・しかしながら、このような訂正は、実質的に特許請求の範囲を拡張するものと考えられ、特許請求の範囲の減縮を目的として訂正を認める特許法第134条の2の規定に違反するとして認められない可能性が高い。そのため、現段階では、本件特許権を維持するのは極めて厳しい状況であると言わざるを得ない。